若草の頃/★★★★★

歌で綴る4姉妹(+兄)の物語。まるで向田ドラマの味わい
若草の頃 [DVD] FRT-101 Meet Me In St. Louis: MGM Original Soundtrack Recording (1944 Film)
時代は20世紀初頭。万博を来年に控えたセントルイスは「Meet Me In St. Louis」の歌で沸き返っていた。
4人の姉妹は弁護士で頑固な父親とやさしい母親、長男の兄に祖父とお手伝いさんの9人暮らし。
お隣に引っ越してきた青年が気になる次女エスター(ジュディ・ガーランド)とNYからの長距離電話にそわそわする長女ローズ(ルシル・ブレマー)。活発な三女と現在人形の埋葬ごっこに夢中の四女トゥーティ(マーガレット・オブライエン)。
家族は普段どおりに暮らしていたが、ある日父親の仕事の都合でNYへ引越す話が持ち上がる。
突然の知らせに反対する家族。しかし父親の決めたことに従おうと決心する。
セントルイスでの生活も残り少なくなったクリスマスの夜。雪だるまは持っていけないと知って、四女は夜の庭に飛び出し雪だるまを壊し始める。止める次女と共に涙する娘達の姿をみて、父親もセントルイスに残ることを決意。
最後は万博に出かけた家族が「大都会でなくても自分の生まれ育った故郷が一番いい」と語る。


ミュージカルというと、歌はよくてもドラマはイマイチなことが多いのですが、本作は家族ドラマの部分がよく出来ており、さらに音楽が彩りを添える感じでした。
当時の風俗(リビングにしかない電話や1つ1つ消すガス照明)などの設定が生かされており、家族それぞれのキャラクタが引き立っていました。
(特に、気の利いた事を言うおじいちゃんと真面目な顔をして冗談をいう家政婦は、思わず吹き出すセリフが満載)


また、子供達の世界が実に丁寧に描かれており、特にクリスマスの夜に雪だるまを壊す場面では、四女の泣きじゃくる姿に私も貰い泣きしてしまいました。
家族が一緒に食事をし、父親は尊敬され母親が家を切り盛りする。姉妹喧嘩もあるけどすぐに仲直り。しかもレトロでちょっと懐かしい。
日本で言うとドラマの「寺内貫太郎一家」とか「父の詫び状」などの向田邦子エッセイのような味わいがありました。


しかも有名な「The Trolley Song」やテーマ曲の「Meet Me In St. Louis」、家族の心が1つになる「Boys And Girls Like You And Me」などの名曲とちょっとした踊りが本作をより豊かなものにしています。


ほのぼの系ホームドラマジュディ・ガーランドやマーガレット・オブライエンの歌が聴ける。そんな感じで、私のお気に入りの1本になりました。

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なお、キープ版で観賞しましたが、画質は標準的で問題はないのですが、なんと歌の部分の日本語字幕が入っていませんでした(なぜか英語字幕は入っています)。
やはり来月発売のキャンペーン(正規版)を待って購入すべきだったと激しく後悔してます。

その他、ちょっとした感想。
この映画は擬音つきの歌が多いですね。
セントルイスの歌は「フチュ クチュ!」
アルプス一万尺は「シューシューシュー」
トロリーソングでは「クランクランクラン。ディンディンディン。チャーチャーチャー。ボーボーボー」
でも英語の歌詞より耳に残ります。


高校生が家でパーティを開くんですが、もちろんノンアルコールでエロはなし。代わりにフォークダンスを踊ります。製作年が1944年なので昭和にすると19年。こちらは戦争の真っ最中でございます。


お隣さんにとても積極的なジュディ・ガーランド。
「女から声は掛けられないわ!」とパーティに招待をするのですが、自己紹介が終わるやすぐに相手の手をとって案内を始めます。可笑しいですよね。
さらにパーティ後に"明かりを消すから手伝って"とガス灯を消していく。引っかき棒のようなもので1つ1つコックをひねっていくんですが、形によって「あっこれはここ」とかやっていて、なかなか興味深い。この2人の様子はなかなか微笑ましいです。


20世紀初頭のアメリカ。この当時はまだ道路が未舗装(ただし柔らかい土が敷かれている)で移動は馬車。トロリーバスと呼ばれる路面電車がはじめて運行するからとみんなで乗りに行く場面があります。テニスのラケットは頭のつぶれた五角形。子供の水着は白いネグリジェのような形。とても泳ぐのに適してるとは思えませんね。


お手伝いさんが黒人でないのは東部だからでしょうか?「妹夫婦の家に行きたいので」と理由をつけて夕食の時間を繰り上げるのを見ると、彼女は寡婦でこの家族と同居しているような気がします。厳格だけど家族を暖かく見守っている。とてもいいキャラクタでした。


ハロウィンの風習。怖い扮装をして家々を回るのは現代と一緒のようですが、お菓子を貰わない代わりに家の人の顔に小麦粉をかけていました。これが度胸試しになっていて、四女が一人でミッションを完遂すると皆に褒め称えられます。粉をかけられる大人もわざと怖い顔をしてみせる。このあたりの描写がとてもいいです。


地元で最後のクリスマスパーティ。ジュディ・ガーランドは、初めてコルセットを締めます。すごいつらそう。女の人は大変だなぁと変なところで感心してしまいました。
また、その時に「いい男が20人ぐらい来る。そのうち姉さんが相手できるのは7〜8人ぐらい。残りは私が相手するわ」なんて話をしている。こういったところを手抜きしてないのがよろしい。


舞踏会では相手カードと言うものがあり、それに従って踊るらしい。
そのカードを読み上げて「えーダメ男ばっか」と言っていたら、踊りの場面ではホントにダメ男ばっかでした(笑)。でもハイライトの「蛍の光」で、大きなツリーを通り過ぎると、来られないはずのお隣さんと踊っていました。ヨカッタ、ヨカッタ。


ところが、その後がビックリ。もうすぐ引越しなのに彼氏がいきなりプロポーズ。えっ、君達って高校生じゃないの?(確か高2のはず)。「結婚しよう。もう引っ越す必要もない。ボクは大学に行かずに働くよ」だって。ちなみに長女も高校生なのに結婚の話ばかりしているし。この当時は10代で結婚は当たり前だったんでしょうね。


やはり、見ていて"ガンコ親父"に憧れます。そもそも転勤だって栄転だし家族にいい暮らしをさせたいと思って、がんばって来たのに家族からは総スカン。
長女の電話の時も、父親だけのけ者にされてます。
でも、この親父さん階段にあったスケート靴で転んで(すごい音しか聞こえない)、「夕食前にひと滑りしてきた」なんて気の利いたことも言う。

一番感動したのは、転勤話に反対する家族に「お父さんの決めた事だから従うわ」と言ったお母さんが「転勤はやめる」と宣言したあとで"さめざめ"と泣くところ。
この夫婦の暖かさが伝わってきます。