デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断/★★★★

周到なのにどっちつかず
デュー・デート ?出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断? Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)
ハングオーバー!」の監督と出演者(ザック・ガリフィナーキス)がロバート・ダウニーJr.とタッグを組むの図。
前作の結婚式に代わって出産というリミットに向かってさまざまな障害が立ちふさがるという構図はまったく同じで、もう一方の当事者(女性陣)とおたおたするボンクラ男達という図式も一緒。
ただ「ハングオーバー!」が謎解きの要素で引っ張ったのに対し、こちらは次々と襲いかかるアクシデントと対峙する直球勝負で、「なて?どこかで見たような」という既視感は拭えない。

たっぷりと笑わせてもらったが、特に感じたことは以下の2点。

■脚本のうまさ。
アラン・R・コーエン(原案/脚本)、アラン・フリードランド(原案/脚本)、アダム・スティキエル(脚本)はTV畑の人たちで劇場長編はこれがほぼはじめて。(アダム・スティキエルは「近距離恋愛 」に参加)これに監督のトッド・フィリップスも脚本に参加している。

最悪の出会いをした正反対の2人が仕方なくアメリカ横断の旅に出る序盤のうまさから、次々に起きるアクシデントの巧みさとそれが伏線として繋がる展開が実に気持ちいい。
95分という尺にものすごい量のギャグが詰め込まれているが、私はパーマネタや銀行でのやり取りが面白かった。
「障害者ネタのないファレリー兄弟」というのも納得。
オープニングの語りがエンディングに繋がるあたりも見事だと思う。


■わざと落とさないのか?
これだけよく出来た脚本にもかかわらず「スカッと笑えるコメディ」にも「ぐっと来る物語」にならないのは意図的にやっているのだろうか?

たとえばピーター(ロバート・ダウニーJr.)が父親の思い出を語るシーンがあるが、悲しい話なのにそれを聞いたイーサン(ガリフィナーキス)は突然笑い出す。しかもなぜ笑ったのかフォローもしない。シーンの切れ目は泣くでも笑うでもないイーサンのアップとフェードアウトだ。
このような不思議なカット(尻)が何箇所かあり、見る側は泣くのか笑うのかよく分からないまま放り出される。

イーサンのキャラクタも感情移入しづらい面が多い。
最初の車に乗せるときに急発進するおふざけから始まって「名前間違い」「居眠り」「窃盗」「国境越え」そして「暴発」と到底過ちでは許されないようなアクシデントを引き起こすが、単純に笑えるコメディにしていないので観客にもやもやを残す仕上がりになっていると思う。
(三宅監督の言うところの”リアリティライン”が脚本にマッチしていないように見える)


さらにこの物語のもう1つのテーマである「父と子」についても

  • これから父になろうとするピーターの5日間の物語でもある
  • ピーターは33年前に父と別れた悲しい思い出がある
  • ピーターはいまだに子供とうまく接することが出来ない
  • 父親の遺灰をまきにいくイーサン
  • グランドキャニオンで父と別れを告げる

と、これだけ周到な伏線が張ってありながら肝心のピーターが父親への自覚(自信)を獲得するエピソードがない。
最後は生まれてくる子供に屈託のない笑顔を見せて「吉兆」を受け取るだけだ。


こうした「笑い」にも「感動」にもならないどっちつかずの中途半端さが評価の分かれる部分だと思う。


後半(特に終盤は)物語が暴走気味になり、それ必要なの?と首を傾げたくなるカースタントが炸裂する。
コメディといえども手を抜かない(むしろ徹底的にやる)精神とともに、ここまでやらないと満足しないアメリカ人気質のようなものを感じた。