エイリアン/★★★★★

実はエイリアンの生態も撮影されていたSF映画の金字塔!
エイリアン [DVD]
このテキストは監督(リドリースコット)のコメンタリからヒントを得て書き上げたものです。ネタばれ満載なのでご注意を。

脚本と構成
最初の45分は何も起きないし、最後の17分はセリフがほとんどない。にもかかわらず見事に緊張感を保ち続けてSFのみならずサスペンス映画としても一級品に仕上げたのはダン・オバノンの脚本である。
まず、宇宙船を密室に見立てて見知らぬ怪物との恐怖を描くアイデアが秀逸。またすべてが企業に支配された未来というのも先見性があった。それに船員同士の関係はぎすぎすしており、お互いに心を許していない。巨大企業に支配された未来は「ブレードランナー」にも使われたというテーマであり、リドリー・スコットにとっても重要なモチーフとなっている。
また、女性が最後まで残り、しかも怪物と戦う映画はこの作品が始めてだった。

セットデザイン
「不気味なのにどこか懐かしくて魅力的」この不思議な魅力をたたえたHRギーガーのデザイン画を見事に立体化し、リアリティを与えたのはロジャ・クリスチャン(ノストロモ号の製作)とレス・ディリー(エイリアンの製作)の二人の製作者。
監督も「SF映画で最も優れたセットデザインは2001年宇宙の旅である」と語り、模倣にならないようにずいぶん苦労したと語っている。改めて見ると宇宙船の中をカメラが移動しならがら被写体に近づくシーンが多く、このセットデザインがもう1つの主役ともいえる。
ただ、コンピュータ関係(コンピュータ室やモニターの表示)には苦労したようだ。そのほかにもジェット機やヘリ部品を使って(実際にこの映画のために中古のジェット機を買っている!)リアリティを与えたり、いかに細部を写さず雰囲気を出すために苦労したかが語られる。
セットは金色に塗られている。これはアポロの船体からヒントを得たようで、撮影中もドリー(移動撮影用のレール)の前に常にスプレーを置き、気になるところは塗り続けたという。

キャストとキャラク
エイリアンの魅力は宇宙という閉ざされた空間に閉じ込められた7人の密室劇という所にある(エンドクレジットのキャストは画面の半分以下!)そしてどのキャラクタも明確でしかも魅力的である。

  1. ケイン:腹を食い破られる役といえばだれでも思い出すだろう。実際に本人の出番は少ないのに印象度はピカイチである。
  2. パーカー:強気の黒人。現実主義で会社に対しての不満もぶつける。またリプリーとは対立関係にある。(削除シーンにははっきりと対立する場面がある)
  3. ブレッド:パーカーの相棒。キャラは最も薄いのに猫を追いかけて雨もりで顔を濡らすシーンはまさに独壇場。ちょっと抜けたところがある。
  4. アッシュ:アンドロイド。よく見ると伏線となる演技が随所に見受けられ、正体がわかったときに違和感を覚えないように細心の注意が払われている事がわかる。
  5. ランバート:不安に怯える女。この中では最も印象が薄いが、削除シーンはほとんどが彼女のパートだった。
  6. ダラス船長:いつも冷静沈着な船長。ダクトに一人でもぐりこむシーンが印象的だが、コメンタリーでは冷静で理知的な演技が良いと監督は一番褒めていた。
  7. リプリー:言わずもがなの主人公。最初は目立たなかったが、船長が殺された後に俄然出番が増え、最後はエイリアンと戦うところまで成長する。ただし、あまりにこの役が強烈過ぎてこれ以降の作品では「戦う女」というイメージから抜け出せてない。

飛び散る飛沫とエロティシズム
「船内の雨」「飛び散る血(アンドロイドは白)」「エイリアンの口」「ガラスの曇り」「船内の蒸気」「エンジンの噴射」など液体流れるシーンが多いのがこの映画の特徴。
またエロを感じさせるシーンやセットも多い。エイリアンの巣の入り口は女性そのものだし、エイリアンの頭は男根である。そのほかにも「リプリーの口に雑誌を丸めて突っ込むのはフェラチオだし、ランバートは足の間にエイリアンの尻尾が入って殺される。SF映画としてここまであからさまにエロティシズムを前面に出した映画は前代未聞であった。

優れたサウンドデザイン
SF映画のみならず、以降の作品に影響を与えたサウンドは多い。特に「ダクトの隔壁の開閉音」「コンピューターの音」「死に掛けたアッシュの声」「マザーの声」などは印象に残る。その他にも、常に不安を与えるように機械音、振動音が断続しており、ノストロモ号の外観ショットにすらサウンドが与えられている。
印象的なメロディはないがジェリーゴールドスミスの音楽この映画を支えている。
DVDにはサウンドのみの音声が収録されているが、この映画に緊張感を与え、観客を誘導する役割を果たしていることがわかる。船員が目覚めるシーンを編集で合わせているときに感動すらしたと監督は語っている。

削除されたシーン
DVDには削除シーンが2、未公開シーンが10シーン収録されている。
あってもおかしくはないが、切ることにより傑作になりえたと思わせるものばかり。例えば発信者不明の信号を聞く場面、エイリアン撃退の作戦を立てる場面、ケインの体に何かいることを示唆するセリフ、襲われたブレッドを助けに駆けつけるシーンなど。説明を省いたことにより、緊張感や衝撃度が増している。
かわいそうなのはランバート。削られたのは彼女が出ているシーンが多く、彼女だけキャラクタだけ薄いのはそのせいでもある。

実は撮影されていた!
最も驚いたのはエイリアン2で初めて知らされるエイリアンの生態も実はエイリアンで撮影されていた。つまり、失踪した仲間が壁に塗り込められ餌にされようとしているのを発見したリプリーが殺してくれと懇願する船長を焼き払うシーンである。
このシーンがあるとないとでは大違いだが、以降のエイリアンシリーズで我々はたっぷり見る事が出来るので結果オーライだったが、これを切るのは大英断だっただろう。

裏話

  • ダクトのセットは全長が9m程度。当初予算がなくて削除されかかったが、監督が会社に掛け合って作った。ただし、あまり長いのは造れなかったので、あちこちで使いまわしをしている。
  • 最後のシーンでは、リプリーの演技を引き立てるために、セット内に15インチのスピーカーを並べて音楽をかけた。かけたのは富田勲の「惑星」である。
  • 手持ちのブレを生かすためにステディカムを使わなかった。
  • エイリアンは部分しか見せないようにしている。最後の場面はストロボで撮影し、噴射口のシーンは背後からのシルエットなど徹底しており、映画を見終わってもエイリアンの形がわからない。またエイリアンに襲われる場面もわざとカットを変えて「悲鳴」だけ聞かせるなど隠蔽しており、これが恐怖を際出せている。ここに映画の「マジック」がある。
  • 自爆のプロセスは良く出来ている。この手続が煩雑であればあるほど見る側のカタルシスが得られる仕掛けだ。例えば宇宙戦艦ヤマト波動砲発射のプロセスが長ければ長いほど燃えるのと同じ原理だ(例えが古すぎるけど)。また取消プロセスが間に合わないというのもいい。このシーンがただの名作ではなくカルトなファンを作ったともいえる。
  • 猫が重要な役割で使われる。船員たちが命をかけて救いに行くのも、エイリアンと間違えドキリとさせられるのも猫のせいであり、8番目のクルーとも言える。また、最後にエイリアンに寄生されていることを示唆させるのも興味深い。これは明らかに監督の狙ったもの。おそらくこの段階ではエイリアン2は地球に下りた後の話になるのではなかったか。(今度は猫の腹を食い破って出てくる)実際にはエイリアン2は他の惑星の話になってしまったため、代替として「スペース・バンパイア」が作られたとも読める。(スペース・バンパイアは宇宙で卵を発見した飛行士がエイリアンに"精神的"に寄生される話である)こうしてみると意外なつながりが見えてくる。