神様のくれた赤ん坊(1979)/★★★★☆

昔の恋人に会ってみれば・・・
神様のくれた赤ん坊 [DVD]

山田洋次監督が選んだ喜劇映画50本」の中で一番楽しみにしていた作品。
やっと観る事ができました。
これは公開当時、大学の映研(映画研究同好会)で課題で出されて仕方なく観た1本。
ストーリーはすっかり忘れていたのですが、すごく良かった事だけは覚えていて、いつかまた観たいと思っていた作品です。


渡瀬恒彦の前に突然連れてこられた5歳ぐらいの男の子。
昔付き合っていた女(アケミ)の置き手紙で、子供の父親候補は自分を含めて5人(!)いるということが分かります。
子供を引き取りたくない渡瀬恒彦は、残りの男たちを回って男の子の父親探しの旅に出ます。
そこに同棲相手の桃井かおりも同行することになりますが、実は桃井かおりも自分の記憶にある『ある光景』を探しに行くのです。


子供の父親と思われる男(つまりその当時母親と付き合っていた男たち)は「市議会議員と嘘をついていた議員の秘書」「結婚式を当日に控えた花婿」「元プロ野球選手」「ヤクザの二代目」と個性あふれる男たちばかりです。
現実味はないけれど、どれも子供を引き取りたくない事情があり、やがて慰謝料を請求する旅にと変わっていきます。


しかし、本当の見どころは桃井かおりの自分探しの旅の方。
『昔風の家屋の軒先から見るお城』という光景なのですが、どの町の城もちょっと違う。
そして、その旅の途中で立ち寄った廃屋となっている生家から母親が昔は「大野楼」と言う所にいた事が分かります。
「大野楼」。そう遊郭だったんですね。
旅館の女中さんに尋ねながら、実は母親が昔遊女だった事に気がつく桃井かおり。何とも言えない場面です。
そのあと、母親の昔の写真を見つけたり源氏名が「菊千代」だった事を知ります。
自分も街の女になろうとする桃井かおり。真っ赤な口紅をつけ、トレンチコートをまとって街に立ちます。
このあたりの心理は、男の私にはイマイチ理解できませんが、痛々しい姿にグイと心を掴まれます。
結局、声をかけてきた客とホテルに行ったのはいいけれど、逃げ出してしまいます。


最後にたどりついた街で彼女は駄菓子屋に足を止めます。
よみがえる記憶。
他の子どもたちと遊んでいる姿。
見覚えのある真っ赤な郵便ポスト。

「あ、ここだったんだ、この先に確かタバコ屋さんがあって、いつもその前で遊んでたんよ」

角を曲がると、そのタバコ屋はまだ残っていました。
その前の坂から見上げた先にはお城が。
力が抜けたように、地面に座り込む桃井かおり


この場面をみてなぜ私が30年以上もこの映画を覚えていたかわかりました。


"記憶や絵に残った場所が本当にある場面"(という実にニッチな瞬間)の映画が好きなんですね。
私が知っている限りでは

  1. 『メイン・テーマ』
  2. 『ボクは五才』
  3. 『神様のくれた赤ん坊』

の3本です。
上の2本はその事覚えていたのですが、本作もこの範疇と言うのをすっかり忘れてました。


そんなニッチな嗜好にマッチした作品なので冷静に評価は出来ないのですが、キネマ旬報のベストテンでは1980年の第4位(1位『ツィゴイネルワイゼン』2位『影武者』3位『ヒポクラテスたち』)ですし、山田洋次によれば前田陽一監督作品ではこれが一番いいとの事なので、決して悪い作品ではないと思います。


大好きな桃井かおりさんの演技をたっぷりと観る事が出来ますし、苦手な渡瀬恒彦さんもそれほど嫌味には見えません。
全体的に山田洋次監督が作りそうなぬるいコメディではありますが、何とも言えない味わいの作品だと思います。


なんか、ずっと気になっていた昔の恋人に再会したら、全然変わっていなかった。むしろどこが好きだったかを思い出した(いや、そんな経験したことありませんが)。
そんか気分の映画体験でした。

前田監督 ありがとう。

■予告編

作品の雰囲気がよく出ています。