絹の靴下(1957)/★★★★★

ああっ!麗しのシド・チャリシー
絹の靴下 特別版 [DVD]
ニノチカ」(監督:ルビッチ)のミュージカル版。
いくつかの設定変更をしていますが、ストーリー展開はオリジナルをほぼ踏襲しています。ただしオリジナルにあった"コク"のようなものはすっかり抜け落ちて、とことん明るいミュージカルに変身しているので、前作の好きな方はあれれっ?と思うかもしれません。

■前作からの変更点

まず、前作では"敵"と知らずに2人は知り合い好感を持った後にお互いの身分が判りますが、本作ではいきなり自己紹介してしまいます。
また前作のハイライトだった"ニノチカを笑わせる"場面が本作ではダンスを踊ることで心を通わせる事に変更されました。(「バンド・ワゴン」でもこのコンビはダンスで心を通わせています)。
そして一番の違いは、本国ロシアに帰ったニノチカ達の様子が痛烈な社会主義社会の批判になっていたのに、本作ではただの群舞になってしまいました。
これにはガッカリです。なんといっても2人の恋の障害が"鉄のカーテン"でしたから。もう一生会えないかと観ていて切なくなりましたヨ。ホント。
これがかなり能天気なダンスシーンになってしまい、前作の良さがすっかり失われてしまいました。

■そしてシド・チャリシー

文句ばかり言いましたが、前作より格段に良くなっているのがヨシェンコ(ニノチカ)ことシド・チャリシーです。私はグレタ・ガルボよりこちらの方がイメージに合ってると思います。
ロシア訛りで無表情。仕事熱心で愛国心にあふれており、資本家を蔑み労働者を大事にします。恋もファッションも興味がなく自国のためにとパリの公共施設を熱心に見て回ります。
そんな"武骨"を絵に描いたような性格なのに、姿勢がよくて足が綺麗でスタイルも抜群。時々見せる表情の色っぽいこと。色っぽいこと。
本当の自分の良さに気がついていない(というか興味がない)んですね。これにはグッときました。


※余談ですが観ていて、007の「ロシアより愛をこめて」のロマノワ少佐(ダニエラ・ビアンキ)や「私を愛したスパイ」のアニヤ少佐(バーバラ・バック)を思い出しました。


もともと表情に乏しいと言われていた女優さんだったそうで、その意味でもぴったりの役でした。


その彼女が、野暮ったい服を脱ぎ捨てて、エレガントな服装に踊りながら着替える場面があります。ちょっとしたストリップの趣き(といっても今から見ると露出度は全然低いんですが)もあるのですが、誰にも見られないように、部屋の鍵をかけカーテンをおろして、思い切って着替えていく。下着やスカート、アクセサリーが部屋のあちこちに隠してあって、意外なところから次々と取り出すのも楽しい。
もうこれ観ててシド様!一生ついていきますって思いましたもん。(メイキングで今の姿を見るまでは)
ミュージカル史に残る名シーンだと思いますね。

■その他の見所

シド様が見られたので、あとはどうでもいいんですが、フレッド・アステアとのペア・ダンスはやっぱりため息が出るほど美しかったです。
音楽はコール・ポーターですが、意外と耳に残る曲がありませんでした。
特にプロダクション・ナンバーとなる"The Ritz Roll And Rock"は当時流行ったロックンロールを取り入れたナンバーですが、ロックの良さが生かされていたとは思えない出来でした。
それより、当時のハリウッドを皮肉った“Streophonic”が大爆笑。それはこんな詞です。

今の映画に大スターはいらない
お客を呼ぶのはこれ
テクニカラーシネマスコープ
立体音響(ここはエコーがかかる)


今のお客はヴァレンチノには酔わない
拍手を呼ぶのはこれ
テクニカラーシネマスコープ、立体音響


花嫁を見せるなら真っ赤な唇 2メートルの口
テクニカラーシネマスコープ
シネラマビスタビジョンスーパースコープ、トッド・AO
立体音響でなければ、立体音響でなければ


名犬ラッシーの人気ももう昔の話
今はただの犬
テクニカラーシネマスコープ、立体音響でなければ


海底でタコと格闘、魚とキスしても
おぼれても客は知らん顔
テクニカラーシネマスコープ、立体音響でなければ


エバ・ガードナーが裸で白馬に乗っていてもムダ
テクニカラー
シネカラー、ワーナーカラー、メトロカラー、イーストマンカラー、コダカラー
立体音響でなければ、立体音響でなければ


昔のダンスはしっとりと、頬と頬 寄せあった
今は相手はいらない
テクニカラーシネマスコープ、立体音響でなければ


軽々と踊ったのは昔、今はのけぞり 膝で滑る
ロシア・バレエ モダン・バレエ 中華舞踊 何でもござれ
でも立体音響でなければ
立体音響でなければ
迫力の立体音響でなければ

ね。おかしいでしょ。

前作で笑いを取っていた3人の同士にジュールス・マンシン(踊る大紐育の原始人)、ピーター・ローレ、ジョージ・トビアスが演じています。