映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜(2011)/★★★☆

前作よりは格段にいい。もっと寺本監督らしさを出してはどうか?
映画ドラえもん『新・のび太と鉄人兵団』シールおあそびえほん (小学館のテレビ絵本シリーズ)
昨年の「のび太の人魚大海戦」が酷かったのでドラえもん映画は2度と劇場で観ることはないと思っていたのですが、息子(小2)からのリクエストとYahoo映画で絶賛だったので、今度こそはと足を運びました。(ちなみに原作、オリジナル映画とも未見)
序盤はとてもテンポがよく、落ちてきたロボットを組み立てる高揚感や湖で遊ぶシーン(「アイアン・ジャイアント」を思い出しました)から衝撃の破壊シーンまでは一気呵成に進みます。
こりゃ傑作だ!と思っていたのですが、途中からどうもモタモタしていけない。


人間を奴隷にするために鉄人兵団がやってくる話なので、どうやって鉄人兵団をやっつける(または追い返す)かが焦点となるのに、なかなかそこに行きつかない。
話の展開として

  1. 鏡の国でロボを組み立てる
  2. いつの間にかそこに秘密基地が出来ている
  3. ロボが現実の世界に乗り込もうとするが、次元の入口が閉ざされる
  4. 鉄人兵団(本体)が宇宙から来たので、次元の入口を作り直して誘い込む
  5. 鏡の国だとバレて現実の世界に乗り込んでくる

と、2つの世界を行ったり来たりする上に一度閉ざした入口をワザと開け直すというかなり複雑なお話だと判ります。
これは原作およびオリジナルの複雑さをそのまま引きずっているからではないでしょうか。

さらに、「リルル&しずかちゃん」「のび太ピッポ」と2つの主筋が走っているのでドラマ部分が拡散している印象を受けました。
上の3番と4番のあたりでもたつく感じがするので、この辺りをもっと縮めるとよかったのではないでしょうか?
ただ、観ていていまどっちの世界(現実・鏡の国)にいるのか混乱しないのはさすがだと思います。


監督は「のび太の新魔界大冒険〜7人の魔法使い〜」で高い評価を受けた寺本幸代監督。
インタビューを読むとたしかにこの監督が工夫したところはいい場面になっています。

  • のび太ママの3連ギャグは息子に大受
  • 最初のしずかちゃんとリルルのすれ違いは劇場で「かわいい」と子供たちから賞賛の声
  • ピッポの登場シーンは総じて子供受けがいい(笑い声が上がっている)
  • ラストで大泣きしている子供あり
  • 破壊シーンの凄さはとてもドラえもん映画とは思えない(巨神兵並みの爆発表現)

それと女性監督らしからず(?)意外とエロい表現もあって、女性キャラ(のび太ママ、しずかちゃん、リルル)はキャメラの『あおり(足ナメ)』カットが入っていたり、リルルの全裸シーンが多く入っていたりとこれもドラえもん映画としては新鮮に感じます。


逆に気になったところもあります。

やはり「リルル&しずかちゃん」「のび太ピッポ」を同等に扱うのは無理がある

インタビューを読むと90分に納めて欲しいという要望もあったが縮めきれず108分になったとありますが、
もっと「リルル&しずかちゃん」パートはセリフを切って絵で表現できると思います。「TVと映画で演出は何も変わらない」と言っていますが、これは映画の力を信じていないということ。
劇場用アニメとしてもっと徹底的にこだわっていい。もともと細かい表現が得意な人なだけにセリフに頼らずちょっとした仕草や小物で表現することにチャンレンジして欲しい。
その意味でこだわりポイントとして

  • もっと「3」にこだわってほしい

重要なデザインとして三角形が出るし、はめる星も3つ。ならばもう一人重要人物が出てくるなり、人物的な三角関係がないと活きてこない。

  • ある歌が何度もでてくるが、肝心のドラマにからまない

「1つ目は愛」で始まる子守唄が開巻、ピッポの歌、終盤と出てくるが、これが全然活きてない。
歌の使い方では「おまえ、うまそうだな」という傑作があるのでこれを参考にすべし。
さらにピッポは歌がうまいのが全然に活きてこない。これも消化不良の印象を強めています。

ラストはしっかり見せてほしい(ただの幻では泣けない)

ラストでしずかがリルルとすれ違いった場所が出てくるのだから、ここで花を見つめるしずかで終わるべき。
天使になるのは消えるときでしょ。じゃないと盛り上がれないです。

リルルはもっと非情でいい

リルルの登場シーンはゾクゾクするほど非情さが出ていている。終盤とのギャップがあればある程キャラクタが活きてくる。


やはり、原作・オリジナルに忠実すぎて伏線が生かし切れていない印象があります。
そもそも、なぜこれをリメイクするのか?(企画ありきというのではなく)なぜ今なのか?そのあたりをキチンと提示して欲しい。
オリジナルにあるのは人種問題だと思うが、アメリカ映画ならいざ知らず日本で作っても共感は得られない。
少子化問題のメタファーとするなら、ロボットたちが老朽化したので人間を奴隷にするとか、純血主義(多人種問題)とするなら自分たちと同じ形をした生きものがいるのが許せないと虐殺しにくるなり何かないと心に響かないと思う。


「泣ける」とは思いませんが、少なくとも昨年の「のび太の人魚大海戦」よりは全然いい。
この監督のリメイクではないオリジナルのドラえもんが出来たらぜひ観てみたいと思います。素晴らしい。


PS.いま「劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段」もやっていて、こちらは「おまえ、うまそうだな」の藤森雅也監督作品。
どちらにするかすごく悩んだのですが、公開館が少ないのと近くの川崎では停電の関係で朝と夕しかやっておらず、時間が合いません。
来年はぜひ藤森監督にドラえもんをやってほしいと思います。

さらに「塔の上のラプンツェル」も絶賛上映中。
今年の春アニメ映画はかなり豊作です。