グッドナイト、グッドラック(2006)/★★★★☆

骨っぽさにしびれる
グッドナイト&グッドラック 通常版 [DVD]
ジョージ・クルーニー製作、監督、脚本、出演のドラマ。反骨のニュースキャスター、エド・マローの物語。


ジャズ、タバコの煙、モノクロの映像、クローズアップの多さ、極端に説明を省いた映像、コントラストの効いた照明、閉塞された環境で展開するドラマ。
見る側の感情移入を拒み「わかる奴だけ判ればいい」と割り切って作っているので、興味がない人には向かないかもしれません。
ただ、93分という短さなのであっという間に終わってしまいます。


「シー・イット・ナウ」という報道番組を持っているCBS人気キャスターのエド・マローマッカーシズムの嵐が吹荒れ、人々が恐怖におびえる姿に疑問を感じていた。折りしも陸軍の共産主義嫌疑による解雇事件が発生。早速、番組で取り上げたマローやスタッフ、そしてCBSに対して、政府からの圧力がかかり始める。
恐怖におびえる上層部やスタッフたち。しかしマローはこれを毅然とした態度で跳ね除け、今度はマッカーサー上院議員との直接対決(テレビ対決)を挑むのだった。


美しいモノクロ映像が評判ですが、それはあくまでも副次的な効果で、実際はマッカーサーとの対決映像と合わせるためには必然的にモノクロにならざるを得なかったということですよね。たぶん。
当時(1954年)のセットや衣装を完全に再現し、実際のドキュメンタリ映像(調査委員会やマローへの返答映像)を使いつつ、エド・マロー側をフィクションとして撮り足す。TVで言えば再現ドラマのような構成なんだと思います。
実際に、本作ではドラマ的なものはほとんどなく、あった事を淡々と描くドキュメンタリー風になっています。


ところが、どんなにモノクロ映像であろうと、どんなに50年代の風俗を再現していようとも、やはりこれは現代の物語だと感じさせる所が凄いと思いました。


面白いのは、確かにエド・マローを陥れる人物が現れたり、マローを委員会に召還したりする場面はあっても、命を狙うような場面は一切ないことです。しかも上司もCBSの会長もマローを擁護しています。しかし映画は全編赤狩り>の恐怖に包まれています。人は何を恐れているのでしょうか?。
映画の中でスタッフが「俺たちは本当に正しい事をしたのか?本当に共産主義者はいないのか?」と自問する場面があります。さらに劇中のマローは苦渋に満ちた表情だけで、一度も笑顔を見せません。
カメラに向かって「GOOD NIGHT,」といった後、横を向きながら「AND GOOD LUCK」と締める姿がとても哀しそうに見えました。


結局「シー・イット・ナウ」はマッカーサーとは関係なく、娯楽番組に押されて番組枠を移動。その後打ち切りとなります。
最初と最後に出てくるマローのスピーチは本当にあったそうです(たぶん内容もそのままでしょう)が、このスピーチの内容が上層部との軋轢の決定的になり、その後テレビ界から干されるそうです。
つまり、マッカーシズムと戦った後TV局にも噛み付いたわけで、とことん反骨精神を貫いた人っだったんですね。


それを頭において観ると、あの終わり方は随分と中途半端だし不親切でもあるけれど、自分を育ててくれたマスコミに対する決別宣言になったわけで、その男っぷりにしびれました。

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参考
■公式サイト"Good Night, And Good Luck.
About the movie - backgroundにCBSネットワークや「シー・イット・ナウ」、エド・マローの解説があります。

■TARO'S CAFE: グッドナイト&グッドラック I
6回に渡って赤狩りマッカーシズム>について書かれています。勉強になります。

■万歳!映画パラダイス?京都ほろ酔い日記:これもまたハリウッド映画、「グッドナイト&グッドラック」
マッカーシー上院議員の顔を始めてまともに見たと感想を述べられています。

■ブラックリストを知るためのフィルム・ガイドその1|ハリウッド・ブラックリストライター列伝ノート|web@Esquire|Esquire
赤狩り研究をライフワークとされているそうです。

■エドワード・R・マロー - Wikipedia
本人の写真があります。雰囲気がよく似てます。