クライング・フィスト 泣拳(2006)/★★★☆

すごくいいのにすっきりしない
クライング・フィスト 泣拳 デラックス・コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]
この映画はとても面白い試みをしています。
新人戦の決勝で出会う相手の背景を平行して描くのですが、接点が全くないまま拳を合わせます。「あしたのジョー」を例に出すまでもなく、こういった映画の場合、"相手を認めつつお互いを倒さずにいられない宿命"のようなものを描くか、どちらかに比重をおいて最後のカタルシスを得るかだと思うのですが、この映画では双方を同等に描いているので、観る側はどっちに感情移入していいか困るわけです。
こうゆうパターンはちょっと他では思いつきません。(私が知らないだけかもしれませんが)


では、この試みが成功しているか?というと正直微妙
決勝に至るまでの背景が分かりやすいし、丹念に描写しているので、たしかにベタではあるけど十分盛り上がるし、ラストでは私もしっかり泣かせて頂きましたが、見た後はどうもモヤモヤしていけません。お互いが自己満足で完結しているように感じるからでしょうね。やはり何らかの結びつきがないと映画として成立しないんだと思うんですが。どうでしょう?。


ただ、観るべきところは随所にあります。まず主演2人の熱演。
リュ・スンボムは不良少年から刑務所に入りやがてボクシングに目覚めていく青年を好演。またチェ・ミンシクは本当に"落ちぶれた中年ボクサー"にしか見えません。
この2人は決勝戦でリアルなガチンコ勝負をしていて、とくに第2ラウンドは手持ちカメラでほぼ1カットで見せています。これはすごい。
そのほかチェ・ミンシクを何度も騙しながら最後は尽くす弟分や反発しながら結局応援するヤクザの後輩、夫に嫌気の差している妻と父親をバカにしながらもどこか慕っている子供。あと"訳あり"の料理屋のおやじ。
リュ・スンボム側はちょっと卑屈な父親と孫を自慢する祖母、弟、それから刑務所で出会った名セコンドおやじやいけ好かないライバルなどなど。みんないい味を出しています。
(うーん。書いててやっぱこの映画は2本分あります)
さらに殴られ屋のチェ・ミンシクに挑む客たちもすごくよかったです。


ということで、すごくいいのにすっきりしない。そんな印象をうけました。ただし見て損はしないと思います。