父親たちの星条旗/★★★★★

複雑な構成を見せきったイーストウッドの手腕に拍手。2本で1つの物語。
父親たちの星条旗 期間限定版 [DVD]
長文しかもネタバレ全開。ご注意あれ。


本作では、硫黄島の戦いそのものよりは、有名な写真(「硫黄島での国旗掲揚」)撮影の真実とそれに写っていた3人の兵士が「国債を買おうキャンペーンツアー」に利用された姿を描いており、硫黄島での出来事は随時フラッシュバックの形で挟まれていました。
さらに、この事実を兵士の息子が調べていくという構成で、時制があちこち飛んでいます。その意味では「硫黄島からの手紙」よりはずっと複雑です。

時系列で言うと「父親たちの星条旗」の1/3くらいで擂鉢山を制覇するまでを描き、「硫黄島からの手紙」で日本側から見た決戦の終結までを描き、また「父親たち・・」に戻ってその後のアメリカ国内の様子を描く感じでしょうか。ただ上にも書いたように、もっと実際は複雑です。

同じシーンを相互に描く場面はほとんどなく、この2作品で1つの大きな物語を形作っていると思います。
それぞれ、独立した作品ではありますが、やはり両方見ないと意図が伝わらない。
硫黄島・・・」では日本人に対する批判のようなものを感じますが、「父親達・・・」ではアメリカ人に対しても痛烈に批判しており、それによってバランスが取れているのだと感じました。
しかも、イーストウッドが凄いのは、それが個人攻撃になっていない。つまり誰一人として悪者がいないというところです。だれもが自分たちの信じる所を信念をもって貫き通す。それなのに誰一人として幸福になることができない。
これが"時代"というものなのでしょうか?恐ろしいことです。


写真に撮られたのは実は2度目の国旗掲揚であったいうくだりは、丁寧に描かれており、ある種ミステリアスでもあります。誰もが信じていた写真がどのような状況で撮られたのか?これを見た当時の人(特にアメリカ人)は驚いたのではなかったでしょうか。
また、財務省の思惑による「国債ツアー」で3人の兵士がだんだんと壊れていく姿は悲しいものがありました。

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さて、戦争スペクタクルとしては本作の方が上回ります。それはアメリカ軍の圧倒的な物量の違いをも意味しており、ドラマ的にも十分意味を持ちます。
大量の戦艦や戦車、飛行機、兵士達。それらが大量であればあるほど、日本軍の劣勢が浮き彫りになる。でも、アメリカ軍はこれだけ物量を投入しながらなかなか制圧できない。資金も底をつく。で資金集めに"国債キャンペーン"に躍起になるという悪循環が起きている事が分かる。そうするとこのスペクタクルが壮大な無駄遣いに見えてくるわけです。実にうまく作られていると思います。


しかし、この戦闘シーンのリアルさはどうでしょう!。
特に"戦艦からの擂鉢山への艦砲射撃"、"戦闘機からの見た目"、"最初の上陸作戦"はその場にいるような錯覚さえします。
さらに、上陸シーンはある意味「プライベート・ライアン」を超えていると思います。(「プライベート・ライアン」の方がより個人の視点なので、単純には比較できませんが)
また、戦場での緊張感はこれまでの映画とどこか違う印象を受けました。たぶん、音響ではないかと思います。
音楽はほとんどなく、生活音(靴音や銃の当たる音、それに遠くの爆音など)が強調されて、よりリアルに感じさせていると思います。
あと、ところどころで画面の上部にフィルタがかけてありました。これは双眼鏡などの見た目でよく使われる手法ですが、実際の戦場を覗き見している気分にさせるための効果ではないかと思います。


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本作では日本兵の顔が個別に識別できないように撮影されており、シーン的にも同じ時間を描く場面がほとんどありませんが、いくつかのエピソードは効果的にリンクするようになっています。"日本兵の自決"、"アメリカ兵を銃剣で殺す"、"衛生兵は標的になりやすい"などです。特に銃剣で殺した相手が実は・・・だったと言うエピソードは、「父親たち・・・」を先に見た人たちからするとあっ!と思ったのではないでしょうか?
欲を言えば"スコップを振り回してアメリカ兵と戦っている日本兵"があれば完璧だったと思いますが、これくらいが適切なのかもしれません。


名前がいっぱい出てくるし、みんな同じ格好をしているので、何度か見ないと分からりません。以下、自分用のメモです。

ドクは衛生兵。アイラはインディアン、レイニーは目立ちたがり屋。この3人が生き残り。その他にハーロンとフランクリンとハンク(本当はマイク軍曹)が旗を立てた。
あとドクの親友はイギー(ある意味重要な役割)。後は財務省人のパドとツアーに同行する上司のキース。

最後に出てくる本人の写真がビックりするほど似てたことも指摘しておきます。