クラッシュ/★★★★

オーソドックスな演出。海外で暮らさないと実感が湧かない
クラッシュ [DVD]
この映画ではハッキリと差別用語や差別するセリフが語られるが、実際にはそんなこたあない。
「このメキシコ女のせいよ」とか「黒人だからだ」とか、さらには「英語を話せ、ここはアメリカだぞ」などとは言わない。ただ、心の中にはあって絶対に口にしないだけだ。(その意味ではキリスト教圏の人は日本人よりもよほど"建前主義"だと思う)

それをこの映画はハッキリと言う。これでもかというくらいに誇張して言う。それがアメリカ人(あるいは人種の多い国)の人々にとっては気持ちよかったり、共感を持ったりするのではないかな?
ただ、そう思うこと自体にどこか後ろめたい気持ちがあり、この映画の後半ではそれが救われる構造になっている。

この映画の中では"差別を意識していた人たちが救われ""差別を意識してない人たちは不幸な結果"に終わるのだ


ポール・ハギスの演出はいたってオーソドックス。ただし脚本家だけあって行間に込められた思いが登場人物深みを与えている。これほど人物のアップが雄弁に語る映画も少ない。ただ、他民族国家に暮らす人間たちの共通認識が根底にあるので、出演者たちも演じやすかったはずだ。


多くのキャストが登場する中で、私は車泥棒のクリス・“リュダクリス”・ブリッジスが印象に残った。他の人物が"明→暗"または"暗→明"の2段階変化の中で、彼だけ"暗→明→さらに明"と3段階の展開をしているからだろう。
その他、セクハラされる奥さんのサンディ・ニュートン、誤解される鍵屋のマイケル・ペーニャとその娘、コンビニ店主のショーン・トーブとその娘のバハー・スーメクなどもよかった。
(あと、私のお気に入りのジェニファー・エスポジートもあまり見せ場がなかったけど出演しているのがうれしい)

ドン・チードルは「ホテル・ルワンダ」の印象がありすぎて記憶に残らず。またサンドラ・ブロックのギスギス女はあまりにリアルすぎて男の私からすると引いてしまう。

1つ残念なのは環境音楽のようなマーク・アイシャムのスコアがダラダラ流れているのがマイナス。


私は海外で暮らしたことがないので、実感としてわかないが、そういった感情に訴えかけるタイプの映画であることは理解できる。ポール・ハギスという人はとても頭がいい。

最初にこの映画の噂を聞いたのは、サンドラ・ブロックの「デンジャラスビューティ2」が期待はずれの結果に終わったとき。
ブコメの女王もいよいよ終わりか?と言われていた。
その前提には、かつて人気を2分していたジュリア・ロバーツがオスカーは取るわ、「オーシャンズ11」で紅一点として名を馳せるわ、さらにハリウッド出演料No.1になるわとずいぶん差がつけられていた。

"やっぱ女優は監督次第だね"と思わせる状況で、いやいやサンドラも「ミリオンダラー・ベイビー」の名脚本家ポール・ハギスの傑作群像劇に出演しており、なかなか評判がよろしい。と聞いた。
その作品が「クラッシュ」だったというわけ。
本作でもサンドラの見せ場は少なく、付けたしと言ってもいいくらいの役柄ではあるが、生身のギスギス女を好演。彼女の嗅覚の鋭さを証明した。