シークレット・サンシャイン(2007)/★★★★☆

日常に潜むささいな不快さと大きな欺瞞。計算しつくされた映画
シークレット・サンシャイン [DVD]
このさわやかなタイトルとは裏腹な「悲惨な物語」でしたが、それ以上に感じるのは、ほぼすべてのシーンに存在する不協和音。
この映画は、普通の日常に存在する、(気にしなければ気にならない程度の小さな)不快さに満ちていると思います。

最初の方だけ例をあげると
・車から降りない無愛想な息子(降ろされると反抗して地面に寝そべる)
・下心ありありの自動車修理工場の社長(赤の他人のために、知り合いの不動産屋を使う)
・修理工場でのセクハラまがいの会話
・初対面で店のインテリアを変えた方がいいかもとアドバイスする主人公(あとでその事を噂しているのを聞く場面もある)
・(ピアノ教室に)ハクをつけるためと、勝手に飾られた偽の賞状

地方独特の狭い人間関係の息苦しさもさることながら、「全然ピアノの先生に見えない」いつも不機嫌な主人公も作品の重苦しさを感じさせます。
見ていて(全く似てないけど)なぜか「タクシー・ドライバ」「アイス・ストーム」「ブルー・ベルベット」を思いだしました。


物語はTVでよくある「人生 天国と地獄」のようなドラマチックな展開が次々とあるのですが、私はそれよりもこの計算しつくされた不快さの方が気になりました。
全てが作り物めいて感じるので、「宗教批判のために作った映画」というより、宗教は「不快さを増幅させるための舞台装置」にしか見えないのです。
それよりこの映画のテーマは”許し”だと思うのですが、あのラストシーンで彼女は許しを与える(得る)事が出来たのでしょうか?
ラストカットに映ったのは「陽だまり」なのか「足跡」なのか。私は悲観的に感じました。


監督のイ・チャンドンは「オアシス」の監督だったのですね。観ようと思ってなかなか観られなかったのですが、俄然観る気が起きてきました。
本作では不機嫌なオバハン("菅井きん"並み)だった主演のチョン・ドヨンの綺麗な姿も観てみたいので「ユア・マイ・サンシャイン」「ハッピーエンド」あたりを観てみますか。
あと、ソン・ガンホが出てるとホッとしますね。


ちなみにDVDでは特典DISCとして監督のインタビューなどが収録されているそうなので、ぜひ手に入れたいのですが、この値段ではちょっと手が出ません。


観るとかなり”嫌〜な気分”になれる秀作でした。