五線譜のラブレター(2004)/★★★★★

コール・ポーターの生涯。豪華な出演者と名曲の数々
五線譜のラブレター 特別編 [DVD] 五線譜のラブレター DE-LOVELY
「夜も昼も」に続く2度目のコールポーターの伝記物。一番の違いはポーターがゲイであることを描いている点です。


パリで暮らすコール・ポーター(ケヴィン・クライン)は最大の理解者であるリンダ(アシュレイ・ジャッド)に出会って、少しずつ成功を手にし始める。それもポーターを励ましたり、ハリウッドから有名作曲家のアーヴィン・バーリンを招いて引き合わせるなどのリンダの尽力があってのものだ。
しかし、ポーターにはある秘密があった。「ひとりの人、ひとつの性に満足できないんだ」。それでもリンダはポーターとポーターの才能を愛し結婚することを承諾した。
パリでの成功とは裏腹に傷ついていくリンダ。NYへ移住も"彼"と別れさせるためだったが、リンダの流産をきっかけに今度はハリウッド入りを決意する。
MGMに招かれたポーターは庶民的な曲を要求するL・B・メイヤーに合わせて安易な(ポーターにとっては粗雑な)曲を次々に提供する。富と名声を得るとともに怠惰な生活に染まっていくポーター。
我慢の限界になったリンダの離別とともに、落馬事故による半身不随の傷害と20回以上に及ぶ手術。と同時にポーターの人気も凋落していく。
病気を知って戻ったリンダに励まされて書いた「キス・ミー・ケイト」の成功により奇跡的に復活を遂げるがやがてリンダの病死以降は全く曲を書かなくなり、寂しい死を迎える。


「夜も昼も」はポーターの業績に光をあて、「五線譜のラブレター」ではポーターの人生に光を当てています。
「夜も昼も」の方が事実に近いようですが、ポーターという人物についてはこちらのほうがリアルに感じられます。
舞台の初日に必ず贈るシガレットケース。乗馬好き。裕福な生活。そしてポーターの曲。いくつかの共通点以外は全く別物と言っていいくらい重なるエピソードがない。すごく面白いと思います。


映画はいきなり死期間近なポーターとお迎えにきた天使ゲイブ(ジョナサン・プライス)がポーターの人生を回想する形で始まります。場面は9歳に始めてピアノの演奏を披露した舞台。ポーター自身の人生が劇の形式で再現され、「甘い歌だ」とか「ここから先はいいじゃないか」などと会話しながら進みます。ポーターの人生はポーターの舞台でしか語れない。これはピーター・セラーズの伝記映画「ピーター・セラーズの愛し方 ライフ・イズ・コメディ!」でも同様の方法論が取られていました。


ポーターが「ゲイ」であるがゆえに何気ないシーンにも色気が漂います。稽古をつける時、舞台を見る時、パーティを楽しむ時。彼の視線の先には若くて美しい青年の姿があります。稽古をつけていると同時にその目で口説いてもいるポーター。またその姿を見ながら深く深く傷ついていくリンダ。「男色」に溺れる相手を愛し、その才能を誰よりも知っていたリンダですが、その分自身の人生も狂わせていく事になります。

■音楽について

ポーターの曲を現代風にアレンジし、さらに実際の歌手が歌っています。
アラニス・モリセットシェリル・クロウエルヴィス・コステロナタリー・コールなど実力派ぞろい。そのせいでしょうか「夜も昼も」ではいまいちだったポーターの曲が名曲に生まれ変わっています。
これ全曲が名曲になっているのですが、特に

が印象的。また、ケビン・クラインアシュレイ・ジャッドも歌っています。アシュレイ・ジャッドって歌がうまかったんですね。驚きました。

ケビン・クラインについて

ケビン・クラインは本作で20代から70歳までを見事に演じています。
立ち姿からしてどこか「ホモ」的なものを匂わせるケビンの振る舞いは、物語をリアルにしていますが、それだけでなく歌と踊り、さらにはピアノまで披露します。
それもそのはずで、「ワンダとダイヤと優しい奴ら」で受賞したアカデミー賞だけでなく、トニー賞も受賞したことのある筋金入りのエンタテイナー。今回は歌もピアノも自ら志願したそうです。
老年のポーターが随所に出てきますが、メイキングを見るまではケビン自身が演じていることがなかなか信じられないくらいのなりきりっぷりでした。

アーウィン・ウィンクラーについて

監督のアーウィン・ウィンクラーは60年代から活躍している名プロデューサー。主な作品として「いちご白書」「ロッキー」シリーズ「レイジング・ブル」「ライトスタッフ 」など骨っぽい作品を手がけてきました。しかし何を考えたか1991年の「真実の瞬間(とき)」でメガホンを取り、「ザ・インターネット」「海辺の家」そして本作と徐々に腕を上げてきた人です。監督からプロデューサーになる人はいても、その逆は非常に珍しいと思います。
本作でもすごく印象に残る長回しの場面があり、それが見事にドラマとマッチしているので感心しました。
※一瞬「タワーリング・インフェルノ」を作った人かと思いましたが、こちらはアーウィン・アレンでした。てへっ。

コール・ポーターについて

ポーターの大ヒットミュージカルといえば「キス・ミー・ケイト」のようです。1953年に映画化されました。
そのほかにもMGMで数々のミュージカルに曲を提供していますが、「踊る海賊」の曲が「雨に唄えば」でそっくり真似され烈火のごとく怒ったのは有名な話。そのほかにも「上流社会」「絹の靴下」も担当しています。(どちらも未見ですがDVDが手元にあるのでぼちぼち鑑賞していきます)
変わったところでは「地中海殺人事件」の伴劇として使われており、ポーターの上品さと地中海の美しさがマッチしていました。
主な楽曲