バンド・ワゴン/★★★★☆

名曲ぞろいのミュージカルの傑作。でもちょっと悲しい。
バンド・ワゴン [DVD] バンド・ワゴン
正直に言うと、最初見たときはアステアの自虐ギャグのようで悲しかったです。
これって落ち目になって引退したミュージカルスターが舞台で復活する話ですよね。しかも一度は失敗するし。
実際「ブルースカイ」を最後に引退していたアステアが「イースターパレード」でジーン・ケリーの代役として復活したのは有名な話。かなりアステア自身の人生とかぶる内容になってます。

特に最初のオークション場面や列車のエピソードに続く"バイ・マイセルフ"では、"いいさオレは一人ぼっち"なんて口ずさんでいる。自虐の極致のような始まりかたに、もうやめて!と言いたくなりました。悲しすぎます。
これが最後まで尾を引いて、結局楽しめないままに、終わってしまったのですが、もう一度ライザ・ミネリのコメンタリを聞きながら観賞し直したら、少しは冷静に見ることができました。


本作の特徴は名曲"ザッツ・エンタテイメント"という曲を生み出したこと。"ダンシング・イン・ザ・ダーク"でアステアとシド・チャリシーの見事なダンスを見せたこと。そしてもう1つは、舞台の内幕物としてドラマ的にも優れていたことでしょうか。
舞台製作の裏側をリアルに描いてると評判のようですが、正直そのあたりはよく分かりません。ただ、見ていてよくできていると思いました。

さらに、これだけの名曲が詰っているミュージカルも珍しいと思います。特に"アイ・ラヴ・ルイーザ"を皮切りに、後半の"ニュー・サン・イン・ザ・スカイ"、"プランを変えよう"、"ルイジアナ・ヘイライド"、"トリプレッツ"のつるべ打ちは凄い(それでも、まだ3曲もカットしているらしい!)。
これだけの名曲を惜しげもなく披露し、最後の"ガール・ハント・バレエ"(結構長いシークエンスですが)まで一気に終盤にもって行きます。たしかにここまで名曲ぞろいのミュージカルは初めてなので、最高傑作と言われるだけはあると思いました。

また、アステアとチャリシーのペアダンスには鳥肌が立ちました。「ザッツ・エンタテイメント」で場面は知っていたのですが、そこに至るまで経緯(ドラマ)を知っていると、より深く楽しめると思います。


コメンタリでは監督の娘でもあるライザ・ミネリが撮影現場を見ていたそうで、ダンスの素晴らしさについて語っていますが、言われると確かにその凄さに気がつきます。
まず、"シャイン・オン・ユア・シューズ"では回りは誰も踊っておらず、あくまでも街中で変なおじさん(アステア)が踊っているという演出になっていること。しかも、1カットが異様に長いこと。(これはエキストラも大変!)。階段を使った踊りでは、足元を見ていない事。(そう言われると、確かに見てません。凄いです)。エキセットリックな舞台監督(ジャック・ブキャナン)は父親で監督のヴィンセント・ミネリがモデルであったこと。などが語られます。


雨に唄えば」(52)は映画製作の内幕もの「バンド・ワゴン」(53)は舞台製作の内幕ものと、奇しくも自分たちの姿を題材にした内幕ものが傑作として後世に伝えられているわけですが、自身がネタになってしまっている本作はミュージカルの衰退を告げる最後の輝きにも似ていると思います。

50年代がミュージカルの黄金期だなんて言った人はだれですか!?