スリーデイズ(2010)/★★★★

脱獄計画を立てるプロセスをじっくり描く
スリーデイズ [Blu-ray]

ポール・ハギスといえば「クラッシュ」や「ミリオンダラー・ベイビー」あるいは「告発のとき」などの社会派監督のイメージがありました。
しかし、予告はよくあるサスペンス・アクションものにしか見えません。
(ただ普通の脱獄物と違い、刑務所の外側の人間を描くのが新しいなぁと思っていましたが)

実際に観ると、脱獄そのものより、脱獄させる側のラッセル・クロウがいかに脱獄の計画を練り上げ、実行に移していくかを丹念に描くのが中心の映画でした。
結果よりプロセスをじっくり見せるタイプの映画。
例えば「太陽を盗んだ男」(原爆を作る過程をじっくり見せる)とか「ミッドナイト・クロス」(狙撃された場面を録音マンが再現する)などといった感じの”一般人がどうやって脱獄計画を練り上げていくか”を見せる映画だと思います。
そんな目的よりもプロセスが好きな人は気に入るかも知れませんが、それ以外が気になる人は面白くないかもしれません。


下手な監督だとつまらない映画になりそうですが、そこは脚本(脚色)も手がけたポール・ハギス。観ていて緊張感が途切れません。
犯罪とは全く無縁で大学教授で頭が切れ、決して諦めず実行力もある。(ラッセル・クロウだし)
そんな人が「脱獄計画を作ろうと」とするときは、こんな感じでしょうか?

  1. まず、何を考えなければいけないかを考える
  2. そうだ、達人(経験者)からアドバイスを求めればいい
  3. でも経験者はどこに・・・?

と最初の壁を乗り越えて、なんとか経験者からアドバイスが得られたら、次は

  • 刑務所を把握する(中はどうなっている?出入りしているものは?)
  • 逃走する時の経路をどうする?(周りの地理や環境を把握)
  • エレベータで移動するための合鍵はどうやって手に入れる?
  • 偽名のパスポート、身分証、クレジットカードはをこから手に入れる
  • 逃走資金はどうする?
  • 最終的な逃走先は?逃走時の移動手段は?

などなど。クリアすべき課題が山積みですが、これらを1つ1つ解決していきます。
もちろんすんなりとはいかず、何度か失敗を繰り返す中でもうだめかという場面もありますが、これらを解決して脱獄を実行に移します。

ここまで苦労して練り上げた計画なので観る方は完全にラッセル・クロウの味方。
脱獄の場面もどこまでが計画でどこからがアクシデントなのか渾然一体となって一気に突き進みます。
しかし最大の障害がなんと脱走している当の本人(妻)。
ある決断をきっかけにトンデモナイ行動に出ます。観ていてイライラしましたが、ラッセル・クロウ偉いです。
ここまでどんなに苦労したか、どんな危ない橋を渡ってきたか。それでも妻の気持ちを思って寄り添います。ちょっとマネできそうもありません。


完全にラッセル・クロウになりきってここまで来た脱走計画。
はたして逃げ切れることができるのでしょうか?


これまでのポール・ハギス作品とは、ちょっと毛色が違うかもしれませんが、すごく面白かった。
彼のクレバーさをまたさらに感じさせる作品でした。


なお、本作はフランス映画「すべて彼女のために」のリメイクだそうで、そちらも気になるところです。