クロッシング(2008)/★★★☆

これって誠実?
クロッシング [DVD]
映画としてみると、ユルいし甘いし典型的な韓流ドラマみたいな作り方なのだけれど、内容がやたらとハードで、例えば子供の肩に出来た(湧いた)アレなんかは他の映画では絶対に見せないようなものもサラッと見せてしまう。
さらに一旦は決着したようにみせていつまでも終わらないので、なんだよと思っていると地獄に落とされる。
このユルユルぶりを狙ってやっているのなら凄いことだと思うけれど、そんな風にも見えないので監督の資質と脚本のミスマッチが生んだ奇跡かもしれない。


この映画は「北朝鮮という国家に生まれた家族の物語」と「重度の病に冒された母親(妻)をもった家族の物語」の2つの観方が出来ると思う。映画としては後者をきっかけに、前者のテーマをあぶりだすという展開になるのだが、私としては後者のだれにでも起きうる物語と感じた。

  • この父は家を出るべきではなかったのではないか?。
  • 病気の治療代を得るために出稼ぎに出たことは間違いだったのか?。
  • 妻を助けようとして逆に妻に負担をかけただけではないのか?。
  • 妻も子も「行かないといけないの?」と聞いていたではないか?。
  • 結局この妻は誰にも看取られることもなく寂しく亡くなっていたではないか?。
  • だた衰えていく妻の姿を看ていくのに耐えられなかっただけではないか?。
  • あえて妻のそばに寄りそう(「なにもしない」)勇気も必要だったのではないか?

むろん何が正解とは言えないし自分だってどうするかも分らないが、出稼ぎ夫に対比して映される妻のカットバックの痛ましさを見るにつけ、どうしてもこんな疑問が頭をもたげてしまう。


それ以降の”脱北者(父)と残された家族(息子)”の特殊性がこの映画のテーマではあるが、多分に政治的なものが含まれている気がするし、むしろテーマに不似合いなこの映画の作りの甘さが気になってくる。
ムードを盛り上げようとする感傷的な音楽(それも四六時中流れている)が耳障りだし、雨の中でサッカーをする父子(おやこ)や息子がしつこくスローで映されるのも鼻につく。
せっかく役者の演技が控え目なのだから、むしろ音楽もスローもなし(あるいは最小限)にして欲しかった。
「ほらこんなに北朝鮮は悲惨なんですよ」と逐一言われてるようで、むしろ腹が立つ。


描かれている事がウソだとは思わない。
実際に凄く特殊な国だろうし我々からみると悲惨な出来事も多いとは思う。ただ”この国の人たち”の立場からするとその中で生活し、幸せに暮らしているのだろから、我々がどうこう言える立場ではないんじゃないかと思えてならないのだ。
もっともっと開放的な国になって欲しいと痛切に感じはするが。


私もこの映画を見て2か所で泣いた。
それまでずっと感情を抑えていた父親が激白する場面とそのあとに続く息子との電話の場面だ。
どちらもそのシチュエーションとセリフで十分心が揺さぶられる。
ここには音楽もスローもない。セリフを語る役者たちの姿があるだけだ。
それで十分じゃないか。この家族の思いは伝わってくるじゃないかと言いたい。

だからこそだ。
過剰な描写を抑えてより事実のみを伝えるのがこの家族に対する「本当の誠実さ」だと思うのだが、どうだろう?。