渇き(2009)/★★★★

変な映画だけど、映画的興奮が詰まっている
渇き [DVD]
最初は全然話についていけずどうなるんだろうと思っていたのですが、どんどん話が転がっていって最後は大感動のエンディング。
観終わっても「もやもや」が晴れないので、あちこち検索しているうちになんとなくその正体が分かった気がします。

パク・チャヌクが本作を構想した経緯として

  1. 十数年前に”神父が吸血鬼になる”という話を思いついた
  2. その時、構想をソン・ガンホに話していた
  3. あとから「テレーズ・ラカン(嘆きのテレーズ)をモチーフにすることを思いついた

という流れがあったと。

そう考えると、なぜ神父が突然アフリカに行ったのか?あの老神父はなぜ殺されたのか?なぜダンナの殺人にだけ良心の呵責を感じるのか?なぜ義母だけは殺されないのか?もっと言うと”なぜテジュに惹かれたのか?”などの疑問が解ける気がします。

要は細かいところはどうでもいいと。
この3つさえ外さなければ、面白い映画になると半ば確信犯的に作っているわけです。
実際「すごく面白かった」ので反論できないわけですが。


特に感じたのは、パク・チャヌク監督の空間設計の巧さと演出の上手さです。
まずテジュの家の構造が実に上手に表現されています。廊下の奥行きを使った縦の構図が効果的。壁を白くしたり照明を明るくするのも面白い。

演出面では殺しががバレるあたりがハイライトなんでしょうが、わたし的には細かいところが気に入ってます。
たとえばダンナを突き落とした時に耳に引っかかる釣り針や、皆殺しの様子を倒れまま見る義母。パンチした街灯が倒れるシーンや、飛びあがるテジュを逆さ吊りにしたり、抱きかかえて自分の靴を履かせるところ。などなど。
語りたくなる場面が山ほどあって、また観たいと思わせられます。
クラシックを基調とした音楽も素晴らしいです。

俳優陣もみんないいのですが、なんと言っても「テジュ」のキム・オクビンがよかった。
夫と姑に虐げられる薄幸な女と思っていたら本性が現れてくるにつれびっくりするほど綺麗になっていきます。
すごい身勝手なんだけど離れられない。そんな魔性の女を見事に演じていました。(ラストの純情さも泣けてきます)
なによりエロいのが高評価でしょう。
同じ裸でも「キャタピラ(寺島しのぶ)」とは雲泥の差でした。
(ただしこれは女優というより監督の問題ですが)


ホント変な映画ですが、映画的な興奮が詰まった映画でした。

実力のある監督がこうしたジャンル映画も撮る。ポン・ジュノ(「グエムル -漢江の怪物-」)しかりパク・チャヌクしかり。そこに韓国映画の充実ぶりを感じるのは私だけでしょうか?