アウトブレイク・エクスプレス(2004)/★★★

いろんな意味で興味深い
アウトブレイク・エクスプレス [DVD]
みんな大好き「乗り物パニック特集」で三宅監督ご推薦。
しかも中国人民解放軍が全面協力した「中国版 カサンドラ・クロス」と聞いては観ないわけにはいませぬ。

タイトルもずばり「アウトブレイク」+「エクスプレス」でB級感溢れる邦題ですが、英題は「SARS JOURNEY」。
製作は「八一電影制片」となっていますが、なんと中国人民解放軍が直接出資運営する会社だそうで、はっきり言って「中国・国策映画」です。


カサンドラ・クロス』ではWHO(世界保健機構)に忍び込んだゲリラが保管されていた細菌を浴びてしまうと言う展開でしたが、、こちらはなんと「SARS」。
2004年当時は深刻な病気でしたが、落ち着いた今となってはかなり迫力が落ちます。


序盤いきなり駆けつける救急車やら乗り込む捜査官やらが短いカットバックで映し出されるブラッカイマー風の演出で、10分後には列車が発車するスピード展開。
テンポがいいのでつい引き込まれますが、何がなにやらよくわかりません。


残念なのが『カサンドラ・クロス』では感染する瞬間がはっきりとわかる演出で、観ていて「あ〜あ染されちゃった!」とドキドキするのですが、本作ではいまいち誰がいつ染ったのか判らない点。
ただ感染者が親切で子供を抱き上げてあげる場面はよかった。

本作の魅力は、登場人物たちのキャラクタ造形にありますね。特にトゥーミーさんとなるマスク売りが生き生きと描かれていて、思い切り事態をかき回してくれます(でもどこか憎めない感じがイイ!)。
悪徳社長もすごくいい感じで、小悪党ぶりを遺憾なく発揮してくれます。
あと忘れられないのが食堂車のコックのおじさん。
時々登場しては訳知り顔で一言。これがいいんです。


脇役がいい割には主役級はおとなしめ。
列車内で病気で戦う女医(『アウトブレイク』でいうダスティン・ホフマン、『カサンドラ・クロス』でいうリチャード・ハリス)さんは、のりピー(酒井法子)似で軍服の似合う女優さん。終盤で涙ながらの訴えを見せてくれます。
もう一人の主人公が夫を戦争で亡くしながらも、列車の運行を指揮する女軍人(『アウトブレイク』でいうモーガン・フリーマン、『カサンドラ・クロス』でいうイングリッド・チューリン)。

国策映画なので当然軍人はいい奴なわけで、モーガン・フリーマンのような悪でもないし、イングリッド・チューリンのように乗客全員を抹殺せよみたいな軍の指令に逆らう訳でもない。(もちろんそんな指令が出るわけもなく)
このあたりがこの映画の弱点でもあります。

ただ、SARS患者が乗り込んでいる!なんとかせねばと言うことで列車に乗り合わせた軍人を召集するあたりはメチャかっこいい。しかも集まったのが陸軍、海軍、(空軍もいたのかな?)。軍服着て列車に乗っているのが?ですが、「緊急招集です」「協力願います」と一声かけると、すっくと立って「了解!」「喜んで任に当たります」「参加いたします」と男たちがスローで列車の通路を歩いていきます。それを見送る一般乗客。一番の燃えポイントでした。


中国人民解放軍全面協力となっていますが、意外としょぼかったりします。
列車には治療する薬も物資もない!とかつての恋人(こちらも医師)に訴えると、なんとこれが国の役人(エリート官僚)で大臣直属の部下。
しかも列車に物資を運ぶのにヘリで直接搬入する作戦が取られます。(つまり列車を止めると乗客が逃げるので止めらないわけです。このあたりは『カサンドラ・クロス』と同じ理屈です)
さて、誰が届けるかという話になって「私が届けます」とそのエリート官僚が大臣に申し出ます。
大臣は渋りますが、恋人を助けたい強い意志(てか物言い)で「君に任せる」となります。

こうした中央(司令部)の場面は総じてブラッカイマー風の演出です。超望遠で背景をぼやかして、ゆっくりカメラが回り込みます。(しかもスロー)
なんかカッコいいんだけど、観ててうっとうしい演出も笑いポイントでしょう。


さて、ここからが爆笑ポイント続出なんですが、ヘリで列車に乗り込む場面がなんと夜間でぜんぜん見えません。
物資を降ろしたり人が乗り込んだりするのですが、アップの場面は明らかにセット撮影。こんな半端なことするくらいならよせばいいのにアクションしちゃいます。(今日こんな演出でハラハラする人がいるのかしら)
列車のトンネル突入で急にヘリが上昇するシーンも(真っ暗でよく見えませんが)一応あります。


そして究極の爆笑が、搬入した医療機器でこれがないと患者が救えないと言っていたモノ。なんと手押しの人口呼吸器でした。
「君には扱えない」とか女医とナースに「君は見ないほうがいい」と言って、即席の治療室(ただの寝台車)から追い出しますが、女医は戻ってきます。
マスク越しに見つめあう目と目。
決意したように男は人工呼吸器を患者にあて、治療を開始します。

しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ

プラスチックのポンプで空気を送り込むのです。
やがて二人は力を合わせてポンプの押します。

しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ

この間感動的な静かな音楽。

しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ

二人のモンタージュ。患者を照らす小さなライト。カメラは舐めるように二人を映し出します。

しゅこ、しゅこ、しゅこ、しゅこ

笑い死にしそうなので、やめて下さい。
こっちを笑い死させる代わりに患者はみるみるうちに回復してきます。

治った。微笑む二人。


しかし、列車は止まりません。
悪徳社長が列車から飛び降りようとしたり、女医の母親(SARSの治療に貢献した第1人者)が亡くなったという連絡が入ったり、それを伝えようとしてラーメンとチャーハンを食べさせようとしたり、車内放送で流れる演談に乗客が耳を傾けたりなど色々ドラマはありますが、クライマックスは風で線路に木が倒れたため、列車を緊急停止させたスキに乗客が逃げ出そうとする画面です。


逃げ出す乗客に女医はマイクで訴えます。
「みなさんよく考えてください。ここで逃げれば感染が広まって中国7億人の命が失われます。正しきことをしてください。一人一人がよく考えて行動してください。」
すかさず女軍人も
「この人のお母さんはSARS治療のためにお国に命を捧げたのよ。その人の言うことが聞けないの(的な説教?)」
乗客も列車に戻っていきます。

ラストは停車駅に向かう軍のトラックやらバスやらが列車と並走する画面。
「やった!軍が私たちを助けに来てくれた!」と乗客は歓喜します。
ここで初めて列車の空撮とヘリが何機か飛び交います。


カサンドラ・クロス(76)』が作られた70年代との一番の違いは、1.主人公達が女性であること。2.携帯が随所に使われること。3.時々現代風のチャカチャカ演出が入る点です。
その意味では非常に現代的にリメイクされているのではないでしょうか?
ちゃんと00年代風にアレンジされているところは好感が持てます。(CGがまったく使われていないのもGoodです)

いやー、いろんな意味で興味深い映画でした。

■公式サイト
http://www.primewav.com/asian/0505.html
燃える予告編はこちら