人生はビギナーズ(2010)/★★★★☆

監督のメッセージが刺さりました
人生はビギナーズ [DVD]
オスカー受賞式のクリストファー・プラマーの姿を記憶していたので、予備知識もなしに借りてみましたが、私にはかなり刺さる映画でした。


大好きなユアン・マクレガーが主演だったんですね。これだけで結構アガりました。さらに”困ったチャン”役のメラニー・ロランもチャーミング!。キャストがよかったです。


メラニーは仮装パーティで男装して口のきけない女としてユアンの前に現れます。そこで彼女が筆談で書いた一言が二人を近づけます。
「Why are you at a party. if you're SAD?」(悲しいならどうしてパーティに?)
そう、ユアンは父親を亡くしたばかりで悲しみで沈んでいたのです。
ここからは、(1)カミングアウトした後の父親の様子 (2)メラニーとの過ごす日々 (3)昔の母親との思い出が並行して描かれます。(特に終盤はカット単位で混じるので、それが過去なのか現在なのかが分からなくなるくらいです)


ユアンの行動原理がよくわからないと指摘されている方を多く見ますが、私はこう解釈しました。
ユアンは「結婚」に対して懐疑的です。いやもっと言うと絶望すらしています。
これまでも何度もお付き合いがあった(真剣に付き合ったのは4人と言ってますね)にもかかわらず、自分から別れ話を切り出します。うまくいきそうになると自分から壊してしまいます。”こんな幸せは永くは続かないと”いう考えが頭にもたげて反射的に逃げてしまうのです。
その原因となっているのが、記憶にある”結婚生活に絶望して壊れていく母親”の姿です。
この母親をメアリー・ペイジ・ケラーが演じていますが、すごくイイです。(過去作をみるとほとんどTV出演ばかりなので、馴染のないない人ですが、このキャスティングは正解だったと思います)
劇中に何度か出てきますが、夫(父親)が出かけるときに軽く母親にキスをするのですが、”絶対に”くちびるにはしません。その都度がっかりする母親。冗談で息子(子ども時代のユアン)を撃つ真似をします。ユアンは撃たれたフリをします。この繰り返し。
子ども時代はこのことの持つ意味がわかりませんでしたが、父親のカミングアウトをきっかけに気がつきます。
父は絶対に母にキスしなかったと。母はそれを悲しんでいたのだと。
父はゲイだったんですね。
父はずっと母を苦しめていました。
カミングアウト以前の父親の姿は全く出てきません。(会話の中でも「子供と手をつないだことはなかった」と話しています)
母はかなり変わった人です。父の美術館で突然ポーズを取り始めたり、子供が盲腸だから父親に会わせろと言い始めたり(横で息子はピンピンしています)
ユアンは母を、そして結婚生活を壊したのは父だとずっと思っていましたし、自分もそうなる恐怖に怯えていました。
ただ、父を介護しているときに真実を知ります。実は父がゲイだと知って母は結婚したのだと。一度は断った父に対して、「私が変えてあげる」と言って結婚を申し込んだのだと。
ライオンにあこがれていたがキリンが現れたらどうするか?という話をしていましたが、それがこの事だったんですね。
母は自ら父を変えると心を決めて一緒になりました。「セックスはなかったの?」という質問に父は「がんばったよ」とだけ答えます。
おそらく子供(ユアン)が出来てからは、ほとんど(いや全く)触れあう事はなかったんじゃないかなと思います。
一緒に暮らしながら、毎日を絶望し、用もないのに父親の美術館に出かけては奇行を繰り返す母。ユアンが結婚を忌避する気持ちもわかります。
ところが、その原因となった父はカミングアウトしてからは、人生をエンジョイし始めます。
恋人募集のプロフィール。ゲイ仲間のサークルの参加。家で開くパーティ。
最初はなじめないユアンですが、楽しそうな父の姿を見るうちに気がつきます。
父も苦しんだと。
お互いがお互いを傷つけあって生活した結婚生活だったけど、どちらかだけが悪いわけではなかったのだと。


母親も父親も亡くして、身内と呼べるものが居なくなった時、ふと現れたメラニーにどんどん惹かれていく自分に気づき、やがて家で一緒に暮らそうと言うまでになります。
ところが来た途端、やはり別れようと言って追い出してしまうのです。
(実際には先にメラニーがふさいでしまいます。ただしユアンはそれを解消してあげる事ができず、「出て行ってくれ」と告げます)
絶対にうまくいかない
失敗を恐れる気持ちが条件反射のように湧いてきます。
しかし父の最期を看取ったユアンは以前とは変わっていました。


失敗してもいいじゃないか。もう1度始めよう!。人生はいつでも初心者なんだから。
タイトルが出ます。
「BEGINNERS」
75歳でカミングアウトした父親。その父を亡くした悲しみを乗り越えようと決意するユアン。それを受け入れるメラニー。英語らしいシンプルだけど力強いメッセージが画面いっぱいに映し出されます。


「人生はビキナーズ」(この邦題はあまり好きではありません)は、悲しみを乗り越える人へ向けた監督からのシンプルなメッセージが心に刺さります。