おおかみこどもの雨と雪(2012)/★★★★

丁寧な演出と豊かなディテール。なのに観終ってモヤモヤ感が。
おおかみこどもの雨と雪 オフィシャルブック 花のように
親子4人で観ました。
ストーリーだけみると完全に大人向けの内容で「サマー・ウオーズ」の監督が作った作品として楽しみにしていた子供たちはどんな反応を示すのだろうと思っていましたが、ずっと息をのんでスクリーンを見つめていました。(こんなことは初めてです)
終わった後は全員無言。この映画をどう受け止めていいか迷っている感じでした。


私も同感です。すごい映画だとは思いますが、同時に終わった後にモヤモヤが残る映画だと感じました。
ネットではリアルさが足りないという意見もよく見ますが、私もいくつかの場面でそれは感じます。1つは「自宅で出産した」という設定。もう1つはあれだけのあばら家を(少なくとも人の住めるぐらいには)直してしまったという下りです。
自家菜園に関しては、地元の人の助けもあったし、最初の失敗も描かれていたのでそれほど違和感は感じませんでしたが、上の2点はさすがにちょっと受け入れづらい展開でした。
そのほかにも、収穫まで時間がかかるはずなのに田舎で生活できているよーとか、農作業中はだれが子供の面倒見ているの?とか、よく考えるとアレレと思うことが結構あります。


逆に感心したのは、丁寧さと場面毎のエモーションの作り方です。
世間にバレてはいけない"オオカミコドモ"の設定があるにせよ、すべての場面にエモーション(感情が揺り動かされる)やドラマ(興味の持続)が用意され、なんてことないシーンなのに息をひそめて見つめてしまうような魅力(引力)が全編にあります。
なにより、描写の丁寧さがイイです。
小学校に行きたいとねだる雪がごみ箱の間に入り込む姿や雨がちょっとしたことで川に落ちる場面など、とにかくディテールが豊かで、よく考えられているな、ちっとも手を抜いていないなと、その丁寧な仕事ぶりにずっと感心しながら見ていました。
また教室の間を行ったり来たりする長回しシーンやカーテン越しの告白など、あざとくなりがちな演出でもキチンと意味を持たせているので十分その効果が現れています。
(教室の標語がその学年っぽくなっているのもイイです)


ここから一気にネタバレ
ただ、観終ったあとのこのモヤモヤ感はなんですかね。
最後はいっそのこと花が亡くなって、天国で夫?に会えれば泣けましたかね。
それとも台風で校舎が崩れて危なくなる草平をオオカミに変身した雪が助ければ、スッキリしましたかね(ジブリっぽい展開)
このモヤモヤの最大の要因は、

”これだけ苦労した花が全く救われないように見えること”

だと思います。

逆にそれがこの映画の狙いだったとも言えるわけで、共同脚本の奥寺佐渡子さんは前作の「八日目の蝉」でも、報われない子育てをテーマにしています。さらに二人の母親(野々宮希和子、花)とも、それを肯定しているのですが、読後感は真逆というか演出家(成島出細田守)によって全く違う物語になってしまいました。
その意味でもこのモヤモヤ感は意図されたものだったのでしょう。


色々文句を言いましたが、このディテールの豊穣さはスクリーンでないと味わえないと思うので、劇場で見ておいてよかったと思います。