監督失格(2011)/★★★☆

大事なものは全て画面の外
監督失格 Blu-ray(特典DVD付2枚組)
エンディングの"失踪感"と"慟哭"には胸を打たれたのですが、観ている間中色んなものに引っかかって写っているものと考えているもののギャップがすごくありました。
"見たいものが全て画面の外にある"映画と言えるかもしれません。
これは意図しているのでしょうか?

例えば

  • 平野監督はAV出身。どんな映画を撮ってきたのか写らない(一瞬出てきますがAVというより罰ゲームみたいな場面ばかり)
  • 林由美香もAV出身。本編で裸はあってもエロいシーンが全くない(いまさら紹介するまでもないのか、意図的にはずしたのか)
  • 平野監督には家庭があり、そもそも不倫の関係(家庭を匂わせるものが出てこない)
  • 北海道で知り合ったサイクリストの結婚話が出てくるが、相手の女性も出てこない(でもそんな男と結婚出来るのかという話題は出てくる)
  • 平野監督と由美香さんが別れる場面(続いても3ヶ月と言った通り旅行から帰ったらすぐに別れている)が写らない(そこでも監督失格と言われたのか?)
  • 北海道シリーズ第2弾となる女優となぜうまく行かなかったか(字幕では説明されているが、絵では分からない)
  • プロデューサーの庵野監督が平野監督を追い込んでいる場面。
  • AV監督とAV女優の不倫の話になぜか「しあわせなバカタレ」を書いて歌った矢野顕子さんのコメント(あってもよさそうなものだが)

そして

  • 林由美香の亡くなった場面で林由美香本人はカメラの奥の部屋にいるが写らず、「それ」を発見した人たち(母親や平野監督と弟子)の姿だけが映る。


すべてをさらけ出したドキュメンタリなのに、平野監督と林由美香以外はほとんど写らない(ママは出てくるが)がゆえに見ていて気になることが山ほどあるのに、見せてくれくれない。
それが、この作品を純度の高い恋愛映画として昇華させているのかもしれない。


林由美香という人は、前半で展開される北海道旅行での泣き顔が全てだと思う。
可愛くて我がままで意地っ張り。テント生活しているのに化粧は怠らず、出来もしないのに彼(平野監督)と一緒に居たいがゆえに無謀にも自転車旅行についていく。
全てが矛盾だらけなのになぜか放っておけない。
この自転車旅行の様子すらも「自分のネタの一つ」と言ってのける。

これほど自分に正直に「女」であった人なのに、生き方が不器用なのか環境が悪かったのか、自身が欲していた「幸せ」を掴むことなく生涯を閉じる。


皮肉なことに、こうして人々の記憶に残るドキュメンタリが存在する彼女は「しあわせなバカタレ」なのか、家庭がありながら一途に彼女を想い続け映画を公開することができた平野監督は「しあわせなバカタレ」なのか。


一度見たら忘れられないという意味ではどちらも「しあわせなバカタレ」といえるのではないでしょうか?