フローズン・リバー(2008)/★★★★★

すごく心に沁みました。
フローズン・リバー [DVD]
ずいぶん前に町山さんの紹介を聞いてからずっと気になっていたのですが、やっと観ることができました。思った以上に良かったです。

以下気に入った点を書きます。

まるでドキュメンタリを見ているかのよう

冒頭大きなトラック(実はこれがトレーラーハウス(=新しい家)だということが判明します)が国境を越えるシーンの後、庭でタバコを吸う女性のアップになります。
これが目尻の皺などを全く隠さずに映し出します。女優さんからすると結構度胸がいると思うのですがよく撮らせたなと思います。それだけ監督さんを信頼しているのでしょう。
さらに着ているものも粗末だし、生活に疲れ切った様子がよくわかるファーストカットです。
こんな感じで全体的に演出らしさを感じさせないトーンになっていて、まるでドキュメンタリをみているような緊張感があります。

どの程度の貧困(貧乏)かをキチンと見せている

トレーラーハウスの手付に1500ドル、残金が4500ドル。合計6000ドル(約55万)で住む家が買える土地柄です。しかしそれすら払えず、終盤はまるで豪邸ののような憧れをもって語ります。
ガソリン代も迷って決めるし、ビンゴ会場に入る5ドルすら払えません(これは払う以前の問題だとは思いますが)。
夕飯はなんとポップコーンです。でも長男のお昼代は(少ないでしょうが)キチンと渡しています(2度ほどこの描写があったのですが、結構大事な場面だと思います)決して家事(料理)や子育てを放棄しているわけではないのです。

でも車は2台あり携帯も使っています。さらにプロジェクタタイプの大きなテレビも見ています(レンタルですが)。
その割に家の壁についた焦げ跡(ボヤの跡)をどうすることもできず、家の中はいつも雑然としている。そんなリアルな貧困が描かれます。

シナリオの巧みさ

上の2つが根底にあってとうとう「密航」という犯罪に手を染めるわけですが、そこに至るまでの展開が実に巧いと思います。流れが実に自然なんですよね。
逆にドラマ的な山も用意されています。
クリスマスの日に下の子にプレゼントを買うため、また「密航」を決行します。ただ急ぐあまり「ある物」を河に捨ててしまいます。
その「ある物」の正体が分かっとき母親である2人は当たり前のように引き返すのです。急ぐ理由も戻る理由も”母親だから”。さらにこの時家では上の子がボヤを出し、さらに帰ってこない母親の代わりに弟のプレゼントを得るために犯罪も犯してしまいます。
すべては子供や家族(弟)のために一生懸命やっていることなのに、なぜか悪い方に悪い方に転がっていく。この展開が実に切なくてやりきれません。

それでいて後味は爽やか

全体に救いのない話ではありますが、なぜか最後はホッとさせられます。
序盤からたびたび出てくる庭の遊具が最後は希望と幸せを運ぶ道具に見立てられ映し出された時、最初と最後が繋がってスッと心に沁み入りました。



監督は10年近くも掛けてこの作品を生み出したコートニー・ハント。これが初監督だそうですが脚本も書いて製作も兼ねいます。現場は女性スタッフが中心。撮影日数はわずか24日だそうです。
現場にはお子さんも連れて来たそうで、「映画界では、無理だとされてことでも出来ることが証明された」と語っています。(http://www.cinemacafe.net/news/cgi/column/2010/01/7525/)

ホント心に沁みる映画でした。