太陽がいっぱい(1960)/★★★★★

"イタイ"がいっぱい

出演者:アラン・ドロン、 マリー・ラフォレ、 モーリス・ロネ、 エルヴィーレ・ポペスコ
収録時間:118分


有名な「オチ」も知っていましたし、鏡のシーンも見たことがあります。もはや現代の我々には本来の意味での魅力は味わえないのかもしれません。それでもこの映画は輝いていると思いました。


私はトム・リプレイ(アラン・ドロン)のイタさが胸に響きました。金持ちのフィリップ(モーリス・ロネ)の腰ぎんちゃくのように付きまとう姿。最初の盲人のエピソードは2人の関係を示すとともにそんな"イタさ"が全開です。
通りがかりの盲人へ強引に大金を渡し杖を買う2人。フィリップが盲人ごっごをしようと言い出します。目隠しさせたトムを道路に押し出しあわや事故に。「大丈夫だった」と言い訳して、今度はフィリップが盲人のフリしてナンパ。捕まえた女を二人で愛撫するように町を連れ回します。女はフィリップの方を向いているのにトムも横からちょっかいを出す。その姿がもう"イタイ"のなんのって。
つづく有名な鏡の場面もかなり"イタイ"。フィリップの恋人マルジェ(マリー・ラフォレ)も交えてそんな2人の関係が前半はずっと続きます。


ところが、中盤からガラッと雰囲気が変わってサスペンスタッチに。ルネ・クレマンのうまさはサスペンスの盛り上げ方にあると思いました。
最初の殺人の後、荒れる海、ヨットから落ちそうなトム(泳げない)。布がめくれる度に顔を出す死体。この間セリフのない場面がずっと続きます。
2度目の殺人の後、死体を抱えて下りる重量感。今にも滑り落ちそうな階段。他の客が階段を上る音。とっさに加えさせる煙草。止まらないクラクションの音。まるでサスペンスの教科書のような演出でした。

■ドロンの美しさ

この当時24歳?のドロン。貧乏だが野心家で頭が切れる。フィリップに腰ぎんちゃくのようにまとわり付きますが、打算だけではない何かを感じさせます。それは、"同性愛"というよりは"憧れ"に近いものではないでしょうか?

本作のドロンは色んな姿を見せてくれます。「子供の頃はフィリップ一緒に育ったと平然と嘘をつく姿」「馴れない船でぶざまな格好をみせる姿」「自分の策略でマルジェを下船させ、さも残念そうに荷物を手渡す姿」「フィリップとマルジェを盗み見る姿」「鏡に向かって真似をする姿」「女刑事の横でわざと手紙を渡す姿。」「失意のマルジェの傍らに足をそろえてちょこんと座る姿。」
その澄んだ青い目ややたらと見せる上半身の美しさとともに、何度も観たくなる場面がいっぱいです。


アンリ・ドカエの撮影とニーノ・ロータの有名な音楽も相まって、見事な青春サスペンスの傑作だと思います。