ミスティック・リバー/★★★★★

奇跡的なアンサンブルの結晶
ミスティック・リバー [DVD]
一見地味に見える作品だが、脚本、演出、出演者、撮影、美術、音楽、そのどれもが素晴らしい出来で堪能させられた。

少年時代のジミー、ショーン、デイブの3人が遊んでいたところ、見ず知らずの大人たちが現われ、デイブを車で連れ去っていってしまう。数日後デイブは自分で脱出したが、それ以来3人は会う事もなくなった。
それから25年後。ある日、ジミー(ショーン・ペン)の娘が死体で発見される。刑事となったショーン(ケヴィン・ベーコン)はこの事件を担当する一方、犯罪者の前歴のあるジミーは独自に犯人探しを始める。しかしこの日の夜デイブ(ティム・ロビンス)が強盗に襲われたと言って血だらけになって帰ってきていたのだった。
果たして犯人はデイブなのか?

ストーリーだけみると推理物のようにも思えるが、刑事、被害者、容疑者が少年時代のしがらみを持っているために、相互の関係が緊張感となって画面から伝わってくる。
また、ラストも一般的な勧善懲悪にはなっておらず、見る側に判断を委ねているので人によっては後味の悪い作品になっているだろう。

DVDのコメンタリはケヴィン・ベーコンティム・ロビンスが語っているので、その内容も踏まえて感想を書く。
【以下ネタばれ】
議論になったラストは、事の善悪より夫婦の結びつきが明暗を分けているように思えるので、私はこれはこれでアリだと思った。パレードの場面は映画史に残る名シーンだと思う(それ以外でも語りたいシーンが数々あるが)

ただしデイブを演じたティム・ロビンス解釈はコメンタリ内で

誘拐犯に住んでいるところを尋ねられ、唯一本当のことを話したデイブだけが誘拐されたことにより、彼はウソをつく習慣が付いてしまった。結局自分の付いたウソの積み重ねがが自分に帰ってきたのだと解釈した。

と語っており、見た人それぞれに見方があってもいいと言っている。
実際、奥さんへのウソ、友人へのウソ、刑事へのウソ。小さなウソを映画の中でついている(大事なことを「言わない」というのもウソの範疇だろう)が、それも誘拐という忌まわしい記憶から抜け出すことが出来なかった自分の弱さとしてティムは指摘している。
また映画でははっきり出ないが、自分の受けた仕打ちをデイブ自身が犯してしまう誘惑があの夜あったことを示唆しているという。

【出演者】
2003年のアカデミーでショーン・ペンが主演男優賞、ティム・ロビンス助演男優賞を受賞しているが、それ以外にも助演女優賞にノミネートされたマーシャ・ゲイ・ハーデン、刑事役のケヴィン・ベーコンを筆頭に、主役の子供時代の3人(そっくりな上に雰囲気が出ている)、犯人の母親役(強烈な印象)、ケビンの奥さん役(顔が出るのは最後だけ!)酒屋の主人(実に渋い!)など端役に至るまで見事なキャスティングである。

【脚本・撮影・音楽】
原作はデニス・ルヘイン(未見)だが、脚本のブライアン・ヘルゲランド(「L.A.コンフィデンシャル」「ボーン・スプレマシー」)が全ての出演者たちに見せ場を作り、撮影のトム・スターン(「ブラッド・ワーク」「ミリオンダラー・ベイビー」)は強烈な光と影のライティングでドラマを映し出す。またイーストウッド自身によるテーマ曲(4音の繰り返し!)が随所に流れ、ドラマを静かだが力強く支えている。
なお、ブライアン・ヘルゲランド、トム・スターンとは前作「ブラッドワーク」でも組んでおり、これが2作目となる。

【監督】
コメンタリで二人はイーストウッドを絶賛している。「自らを語る」(NHK放送)でも話題になったが、スタートの掛け声をかけず、1テイクで撮る(やり直しをしない)ことで有名な演出方法は「現場に来るまでに役作りをおわらる」「失敗が許されないため緊張感がある」「効率を上げる」「入念な事前準備を行う」などの効果があることを強調する。
ケビン・ベーコンなどは

毎朝の誰と共演するのかスケジュール表を見るのが楽しみだった。これほど終わるのが惜しいと思ったことはない。次作でも端役でいいから使ってもらいたい

など未練たらたらなのがおかしい。役者にとっては実にやりがいのある環境なのだろう。

出演者だけでなくスタッフも含めたこうした協力を「アンサンブル」というらしい。これは奇跡的なほど見事なアンサンブルの結晶だと感じた。


【DVD・コメンタリ】
ティム・ロビンスケヴィン・ベーコンも主演作は20本を超える大ベテラン。またケヴィンは役者として、ティムは演出面からも解説をしている。さらにイーストウッドを賞賛しながら、仕事に対する考え方や今のハリウッドに対する問題点を語り合っており、聞き応えは十分。私が聞いた中では今年のベストコメンタリである。


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